染色を読んだ感想と正門くんの話
学生時代、読書感想文はいつも1番最後まで残る宿題でした。
本、特に物語(フィクション)の書籍に対する感想は、読み手の数だけ解釈があり、一概には甲乙つけ難いものなのではないかと思っています。
ですが、染色を読み終えて、久しぶりに読書感想文みたいなものを書いてみよう、と思い立った次第です。
そしてそこから考えた正門良規という人物についても。
ガンガン本作の内容に触れていくので今から読む予定ですという方は読まない方がいいです。
本の世界観を崩されたくない!という方も主観しかない文章になりそうなので、読まない方がいいかも。
気軽に読んでくだされば幸いです。
読み終わってすぐ思ったことは「なんてあっけない話なんだろう」ということ。
物語の短さしかり、話の終わり方も。
これだけ読み手の頭に疑問符を残しておきながら、ここで終わりなんてずるいと思いました。
そしてこれだけの設定と人物像を描けたなら、長編にする、絶対。私なら。
でもここで敢えて終わらせる、突然に日常に押し戻されるなんともいえない空虚感。
染色のあらすじ。
主人公・市村は周りに才能を認められ、彼女もいて、何不自由なく過ごす美大生。同時に、そんな毎日を退屈に感じながら日々を送っています。ある日、壁にグラフィティアートを落書きする謎の女性・美優と出会うと、彼女の不思議な魅力に魅せられた市村は、彼女と一緒に行動するようになり、退屈だった日常に変化が訪れていく……。
舞台『染、色』公式【原作・脚本】加藤シゲアキ【主演】正門良規
染色の公式サイトからの引用です。
一言でいうと優等生の美大生が不思議な女性と出会って変化していく、そんな話です。
染色を読んでいて1番好きだな、と思ったのは色の使い方です。
染色というタイトルだけあって沢山の色の名前が出てきます。
初めて会った時美優が持っていた黒に見間違うほど濃い藍色のスプレー。
美優の家で見た、イエロー、紫、水色、極彩色の絵。
初めて2人で完成させたグラフィティの端につけたコバルトブルーの手形。
市村が隠した美優のメタリックゴールド、パールグリーン、ブライトレッドのスプレー。
最後に会った美優の腕にあったウルトラマリンとチョコレートブラウンのスプレー。
ここで出てくる色彩たちは、退屈な日々を送る主人公を彩っていった美優という存在を市村が強く意識していたことを感じさせるものだと思います。
でも一番印象的だったのは、終盤で、市村が自分の腕に付いた染料を雪でかき消していくシーン。今まで色でいっぱいだった物語が急に白一色になる。そんな場面展開だと思います。それでも尚消えること無い染料は、市村に美優がどれほど強い影響を与えたか、それを表しているような。そんな気がしました。
そして最後にもう1つ。市村が居酒屋で美優の作ったサイトを見て、その後に2人でグラフィティを描いた橋脚に向かったシーン。そこにはかつて2人で描いたものは跡形もなく無くなって、ただの灰色のコンクリートあるだけになっていました。白でも黒でもない、灰色のコンクリート。これは市村の戸惑いや迷いや色んなものを包含しているように思いました。もう美優のことを知らなかった時の自分には戻れない、でも美優に完全に染まることも出来ない自分。
その時々のシーンに出てくる色彩たちが主人公の心の流れや気持ちを表しているのかな~という個人的な意見でした。
そしてもう1つ。
この話の筋というか、本質は「才能」の話だと思っていて。
周りからも才能を認められていた主人公、要領よく器用に立ち振る舞って、でもどこか冷めていた彼が、自分を理解してくれる才能の持ち主と出会い、惹かれ合い、それでも圧倒的な才能の差を感じて絶望させられる。
「自分の手に付いたその色を見て僕は少しだけ安心した。彼女の色が僕に付く度に、自分も彼女と同じだという気になれた」
本文から抜粋した言葉です。
美優の持つ才能の大きさに圧倒されながら、それでも彼女と同じ色に染まることで自分も同じだ、と自己暗示をかけていく。
でも結局美優と一緒にいることを主人公は選べないんですよね。
「色褪せてもなお、彼女の色は刺青(いれずみ)の様に身体中に刻まれている。なあ、そうだろう美優。」
このセリフ、冒頭でも出てきて、終盤にももう一度出てくるセリフなんです。
美優の存在がいかに大きかったのか。一生消えない刺青のような、生半可じゃない影響を与えられた。それでも自分の持つ才能では彼女と一緒にいられない。自分はからっぽなんだという諦めのような、恐怖のような。これは推測でしかないんですけど。
そして次に染色の主演を務めることになっていた正門くんについて。
ananさんの正門くんのインタビュー「平熱の美学」が発表されたとき、Twitterが超賑わったの、覚えてませんか?
そこ!!!!それ!!!!ってなったの。痒いところに手が届くってこういう事なのかと。
実際にananさんのインタビューを読むと何故ライターさんがこのタイトルを付けたのか、ちょっとわかるような気がしました。
正門くんは撮影や舞台の上では「相手が思い描くものに近づきたい」、「どうやったら(ファンが)キャーって言いやすいか」を考え、何故ジャニーズが続けられたのかという問いには「運が良かったから」「周りにいる人たちが面白かったから」って言うんですよ。
正門くんのやる気スイッチってとことん外付けなんだな、と。でもそれは決して怠惰なわけでも他力本願なわけでもなく、あくまで自分の中の体温は変わらないのに、人からの熱量を加えられると途端にそれに合わせていける人なんだな、と。平熱を保つ術を知りながら、熱を受けるのが抜群に上手いというか。ほんとうに変わった人だなぁと思いました。
正門くんのことを「情緒の体幹が強靭」なんて言ったりしますが、正門くんは周りに流されないんじゃなく、流されるのが上手い人なんだろうな。流されるがままなのに自分という存在を見失わずにいれる人なんだろうな、と思いました。
で、結局何が言いたいかというと、正門くんが誰かに「染められていく様」を見たかったな、とほんとうに思うんです。
周りに流されるのが上手いのにいつもフラットで穏やかな正門くんが、1人の女性にハマっていって壊れていくとこ、みたい。
そしてこの染色という話、体を重ねるシーンは幾度となく出てくるんですが、好きだとかなんとかって言葉で気持ちを伝えるシーンが本当に少ない。正門くんは言葉だけじゃない、どんな表情で、どんな仕草で、どんな声で、演じたんだろう、と。
拙い文章でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
どうかまた、舞台『染、色』の幕が上がる日が来ますように。